『エヴリン』ジェイムズ・ジョイス
父は近頃めっきり老いこんでいる、それもわかっている、自分がいなくなったら寂しがるだろう。ときどき父は非常にやさしくなることもある。すこし前のこと、一日臥せっていたとき、父は彼女に怪談を読んでくれ、また暖炉でトーストをつくってくれた。いつか、母さんが生きていた時分、家じゅうでホウスの丘へピクニックに出かけたことがあった。彼女は父が母の婦人帽を頭にのせて、子供たちを笑わせたのを憶えている。
アイルランドはダブリンの人々の生活を描く、文豪の短編集です。
『エヴリン』の主人公エヴリンにはフランクという恋人がいて、この町を出て一緒にブエノスアイレスに行こう、と約束してます。
エヴリンは悩んでいました。
だけど、どちらかというと町を脱出したいという考えに傾いてはいました。
エヴリンの家庭環境は複雑で、たいへん苦労していたのです。
ところが、いざ出発、という時になって、お父さんのことが頭をもたげてきて、やさしい思い出とかも浮かんできてしまい、結局エヴリンは船に乗りませんでした。
人波にもまれながら「エヴリーン!」と虚しく叫ぶフランクに向けるエヴリンのまなざしは、もはやなんの感情ももっておらず...
恋人より父親を優先するという結末に、
僕は勇気をもらいます。
あと、怪談を読み聞かせたり、暖炉でトーストを作ったりする父親の愛情表現が気に入ってます。